吃音が治らないと言われていたのはなぜ?

日本では長い間、吃音の原因は緊張など心因性のものであると誤解されてきました(緊張や不安は吃音を悪化させることはあっても、それだけで根本的な原因にはなり得ないというのが現代の定説です)。

そのため、治療や支援も医学的というよりも、精神論寄りの心理療法に重点が置かれてきました。かつて重度の吃音を持つ人の一部が、特殊な発声の訓練や講談に数十年かけて取り組み、結果として吃音が改善されたためにそれが民間療法として広まってしまったことも、吃音治療の遅れに拍車をかけました。

吃音は原因が単一でないことが多く包括的な治療、支援が重要であることは事実ですが、「吃音な(心因性だから)治らない」と主張される場合、理解に偏りがあります。

日本では間違った治療方法が定説となった

偏った民間療法の代表的なものとして、「花沢研究所」の矯正法が挙げられます。設立者である口腔外科医の花沢忠一郎氏は国内外を問わず数多くの吃音研究に触れ、日本初の成人向けの言語訓練法を考案しました。

日本における吃音矯正の第一人者と言えるでしょう。1956年より民間の研究所を開き、独自のトレーニングを推奨してきました。具体的には、心構え(胸を張り相手の目を見る、吃音の悩みを人に打ち明けるなど)、腹式呼吸による呼吸法、自己暗示、柔軟体操、発音や朗読、発声の練習などが詳しく設定されています。

これは四半世紀以上前の矯正理論に基づいた矯正法であり、ある種の吃音に効果が認められたとしても汎用性の高い治療法とは言い難いものです。しかし当時、これにより一部の吃音者の症状が改善したことから、定説として広まってしまった経緯があります。

それにより日本は長らく吃音研究がなされていなかった

先述の定説が浸透してしまったため、日本では医学的見地からの吃音の研究、治療が長く見過ごされてきました。心理療法は一部の吃音者、一部の症状には有効な場合もありますが根拠に乏しく、特殊な経験談として留めておくべき事柄でしょう。

吃音は日本国内において、基本的に、医療機関で健康保険適用での受診が可能な「吃音症」という疾病に分類されています。しかし条件がやや限定的なため、包括的な治療の全体を健康保険適用内で行うことは難しいというのが現状です。2000年前後から米国などでは多角的な理論、治療法を組み合わせた統合的なアプローチが提唱されています。

また、吃音を伴う別の症状の治療から、間接的に吃音が改善されるケースもあることが認められ始めました。日本でも研究のみならず、制度の改善や正しい知識の周知が求められています。

さらに吃音治療の専門家「言語聴覚士」も不足している

言語聴覚士とは、国家資格の必要な、リハビリテーションを専門とした職の一つです。言語や音声、聴覚の障害に対し、各種検査を通じて症状を把握し、訓練を行います。主に耳鼻咽喉科や神経内科、リハビリテーション科などに在籍していますが、未だ不足しており、どこでも治療を受けられるという状況ではありません。

また、言語聴覚士は「言語指導」のプロフェッショナルですが、幅広く扱っている症状の一つに吃音があるという位置づけであり、吃音の治療だけを行なっているわけではありません。言語聴覚士そのものの数が足りていない現状ですが、さらに言語聴覚士による吃音治療の発展も今後の課題と言えるでしょう。

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